たくどんの山歩き便り

ガチとまではいかない山歩きを発信します

黒姫山(長野県上水内郡信濃町、標高2053メートル)を登る

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行程の概要

【移動標高】1140メートル→2053メートル(差913メートル)

【山行時間】6時間27分

【移動距離】13.65キロメートル(GPS)計測

【天気】曇のちうっすら晴れ

 

緑色に包まれて歩く癒やしの山行「黒姫山

黒姫伝説に語られるその山容は信濃の"フジヤマ"

長野県北信地方に伝わる「黒姫伝説」という民話をご存知だろうか。
美しい黒姫に、龍蛇が求婚し、云々という物語だ。
いく通りかの物語が存在するが、話の詳細は他に譲ることにしたい。

黒姫山の山容は、裾野が広く富士山のような形から、安曇野市有明山と並び、信濃のフジヤマと称される(静岡県公式ホームページの全国ふるさと富士に紹介されている)。

 一つ目の池「種池」

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(左)登山口前の駐車場(4、5台のスペース)(右)ぬかるむ登山道

山行を開始しよう。
今回の出発地点は西新道登山口とした。
歩き始めは笹薮に囲まれた平坦な道を進む。
前日の雨で、道がぬかるむ。所々に木が渡されているところを見ると、おそらく雨が降らなくても、ぬかるむ道なのだろう。
標高1000メートルを超えるが、前回の飯縄山と同様、背丈が2メートルはある、笹に囲まれた登山道は、熱(いき)れた空気が漂っていた。

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静寂な種池

登山口から10分ほど進むと、「種池」に向かう枝道の分岐に着く。
そこから1〜2分歩けば種池だ。
名の由来は、池の水を汲んで戸隠神社に雨乞いをすると、雨が降るから。
雨の"種"となる池ということらしい。
森に囲まれた池には水草が茂り、静けさが際立っていた。

 

物音はごめんだ 

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広葉樹と笹に囲まれた登山道をゆく

本線に戻り、広葉樹と笹薮の中にできた登山道を辿っていく。
終始、登山道の周りを笹が取り囲んでいる。
少しでも物音がしようものなら、ひょっこり熊さんが眼の前に顔を出すのではないかと、気が気ではない。
自然音だけの山中に、これでもかと言わんばかりに、熊よけの鈴を大きめに鳴らすよう努めた。
動物園以外では、互いに遭いたくない間柄なのだから、「いますよ!」というアピールはマナーだ。

二つ目の池「古池」

次に出くわした池は「古池」という。
池の一部分はコンクリートで補強されていた。
池の周りを一周できるようだが、今回は時計回りに半周で済ます。
水面がほぼ揺れることはなく、山を映し出している。
ただ、空が雲に覆われていて光量が少なく、水面のキャンパスはどこかぼんやりしていた。

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カルガモにあった古池

池の風景を写真におさめていると、水面から急に"ぬうっ"と首が出てきた。
思わず「おっ!」と声が漏れる。
正体はカルガモだった。
あちらも驚いたのか、水面に出した頭をすぐに水中に引っ込め、5秒ほど潜水したあと、再び頭を出して、今度は逃げるように池の向こうへと飛び立っていった。
生き物同士、仲良くしましょう。

池の周りを6時方向から時計回りに11時方向まで進むと、苔の衣をまとった小さな祠があった。

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苔生す祠

なんとなく近寄りがたい雰囲気だ。遠くからズームで写真におさめるだけに留める。
自然は、人の手が届かなくなると、その場所を急速に自然へと回収していくパワーがある。

 

森林セラピーにもってこいの登山道

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癒やしの森

池を抜けると、ここから登山道らしい登りが始まる。
沢の流れる音とウグイスの鳴き声が響き渡る。
ブナなどの広葉樹林の中を歩くいていると、リラックスできる。
歩くスピードも、この中を満喫するようにゆっくりになってしまう。
自分を広葉樹が受け入れてくれるような気がする。
針葉樹林の中では、葉の形よろしく、刺々しさを感じ、急き立てられるようにせっせと歩が進む。
針葉樹が仁王様なら、広葉樹は観音様の雰囲気だ。

丸太を渡した沢を一度だけ渡ることになる。
緑の中、清水(せいすい)が苔生す石にぶつかりながら、柔らかく自然に流れていく。
登山道中、マイナスイオンをもっとも浴びることができる森林セラピースポットだ。

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マイナスイオンを存分に

ブナ林の中、歩をすすめる。
登山道は飯縄山よりは歩きづらい。
木の根の露出が多く、この日は地面が濡れていたためよく滑る。
登りはまだましだったが、下山時はしょっちゅう滑って転びそうになった。
トレッキングポールは必携だ。

 

自然の恵みで作られる伝統工芸品

登り始めること2時間、標高1,485メートルの「新道分岐」に着いた。
「戸隠竹細工の森」の木標が建っている。
この地域の伝統工芸品で、原料はチシマザサだ。
長野ではネマガリダケという。
ここまで通ってきた登山道を囲んでいたのが、この笹である。

ここから先、大きめの黒っぽい石が目立ち始めた。
分岐から30分かけて標高200メートルを登ると「しなの木」に到着する。

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自然の恵みから作る(左…竹細工の木標、右…丸太のベンチ)

広場になっていて、丸太のベンチが据えられている。
腰を下ろし、水分補給を兼ねて休憩した。
少しずつ光が強くなって、登山道が明るくなってきた。
頂上に着く頃には曇り空から青空に変わってほしい。

眺望を期待して

「しなの木」で10分弱休憩し、再出発。
ここから「姫見分」まで、登山道一の急登が続く。

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木の新根を発見

尾根道だが、眺望はない。
足をひっかけないように、頭をぶつけないように、四方八方に気を配りながら登っていく。
ひたすら登ること標高220メートル、距離にして700メートル。
「姫見分」に着くと、ここから先は頂上直下まで平坦な稜線歩きが楽しめる。

「しらたま平」で、この山行初の展望が開ける。はずだった。
眼前にはまだ雲が残っていて、眺望がほとんどない。
そこに景色があるものとイメージし、遠くを眺め、深呼吸してみる。
雲は吸い込めやしないし、吹き飛ばすこともできない。
足元には白玉というより、黒玉の石や岩がごろついている。
風が吹く。飯縄山では味わえなかった、良質な涼風だ。

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風に〜吹かれて〜♪

 

足元の景色を眺めながら頂上へ

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頂上まで稜線歩き

頂上にかけて眺めが良くなることを祈って、「しらたま平」を後にする。
稜線の登山道には、進むごとに色や形が異なる花たちが咲いている。
概して主張が少ない花たちだが、目立つ。
人の手が加えられずに野に咲いているという点で、なにか特別感がある。
野生児的な魅力だ。

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(左)ハナニガナ(右)コバノイチヤクソウ

そんなこんなで、「しらたま平」から「峰ノ大池分岐」まではゆっくりと歩いて20分くらいだ。
ここから頂上まで、段差を超えるのに苦労する岩稜帯を80メートルほど登る。
「頂上まで後少し」と思い、「しんどいなぁ」と思い、そして無心となって、その堂々巡りを繰り返しているうちに、黒姫山頂上へ到着した。
頂上周辺は、20人、30人が優に居られるだけのスペースがある。ただ、30人いては密になりすぎるが。


 

頂上でわずかな青空がそっと現れた

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頂上に到着

頂上標は鉄製の四角い看板だった。
頂上から360度に見える山々が記してある。
そして岩の上には小さな祠が建っている。
遠くを見渡せるほどに、雲は消えてくれなかった。
飯縄山から引き続き、梅雨前線に景色を阻まれた。無念。

ただし、日陰というものがないため、一度太陽が照ると、カーボンヒータにあたってるようにすぐに熱くなる。
あまり長居出来そうにない。

飯縄山もそうだったが、蝿が大量に飛んでいる。
天狗岩にもそういや大量にいた。
彼らの目的は不勉強で知らないが、ただ鬱陶しいと思うだけだ。蝿たちよ、わがまま言って、失敬。

頂上には約30分滞在した。
卵ロールとおにぎり、そしてスイートポテトでエネルギーを補給する。
少しだけ日が差し込み、雲間に夏の青い空が見えた。
雲ひとつない真っ青な完璧な空は、それはそれで清々しい心地よさを感じるが、雲間からわずかに見える空には、ほっとする暖かさがある。

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少しの青空に癒やされる

 

今回、峰ノ大池に立ち寄るのはお預けとし、登ってきた道を戻る。
下山時、何組かの登山者とお会いした。
彼ら彼女らは展望を望めただろうか。

黒姫山は森林浴に適した山、まさに"The 森"。

では、ここいらで。