飯縄山(長野県長野市、標高1917メートル)を登る
行程の概要
【移動標高】1225メートル→1917メートル(差692メートル)
【山行時間】3時間38分
【移動距離】7.92キロメートル(GPS)計測
【天気】曇時々晴れ
|
日本二百名山と北信五岳に名を連ねる山岳信仰の霊山「飯縄山」
一気に自然モードに
車の扉を開けて外に出た途端、森に漂う土と木々の香りが臭覚を刺激する。日常モードは鳴りを潜め、こころとからだが自然満喫モードへと切り替わっていく。
飯縄山への登山道はいくつかあるが、今回は西側から登ることにした。もっともポピュラーな一ノ鳥居登山口からのコースと、最終的には頂上手前で合流することになる。
登山口は、子どもが忍者になりきって、一日中過ごせる「チビッ子忍者村」(大人でも忍者になりきったって、白い目で見られることはほぼない、素敵な空間だ。以前、大人として入村した経験がある)から林道を少し入ったところにある。
駐車スペースは林道の路肩。縦列駐車でとめる。木々の匂い、近くを流れる沢の音、鳥の鳴き声が五感を刺激する。登山口から崩れかけの階段を登ると、平坦な登山道へと続く。ここから萱ノ宮までは歩きやすい登山道だ。道幅は2メートルほどで、踏みかためられた地面を、枯れ葉と折れ枝が覆う。
|
暑いのも登山のうち
登山口から萱ノ宮までは時間にして30分ほど、距離にして約1.5キロメートルだ。鳥居には、しめ縄がかけられ、紙垂(しで)が垂れ下がっていた。いっこうに紙垂が揺れない。どうりで暑くて、大量に汗をかくはずだ。ストレスなくバドミントンができるほど、まったく無風で、天然の冷風機が機能していない。
鳥居をくぐり、左側にある社を詣で、水分補給をして出発する。ここから、少しずつ登山道に石が現れ、標高が上がるに連れて岩へと変化していく。ウグイスのさえずりと谷渡りの声が、遠くの方からこだまする。傾斜が少しずつきつくなってきた。段差もある。地面からむき出した木の根が、足をすくおうとする。
登ること1時間15分。樹林帯を抜け、東側、南側の展望が開ける箇所に出た。この時はまだ、もやが視界を遮り、景色を眺めることはできなかった。北の方角を見上げると、飯縄山の南峰が「への字」の形に顔を出している。登山道を覆うような木々がなく、周りは笹薮だ。光が少しずつ差し込みはじめ、地面からの熱(いき)れが体にまとわりつく。白と黄の小さな花が、道横に所々咲いている。
|
仏像に神社、そして頂上へ
むっとする熱気の中、うなだれながら歩を進める。少し登り、平坦な道を150メートルほど進むと、森の中へ再び入る。前日の雨でぬかるむ道の中、できるだけぬかるみが少ない場所を選びながら進む。森の中を出て、ほんのわずかで一ノ鳥居登山口からのコースとぶつかる。
登山道横に石仏が見えた。謙虚すぎるほど謙虚な、控えめな登場だ。気づかれなくても、そっと登山者を見守っているようだった。頂上まではそこから20分ほど。坂を登り切ると、飯縄神社がある南峰に着く。社の中には天狗の絵が飾られていた。神社を背に、長野市内の景色が一望できるはずだったが、ここでもまだ雲が邪魔をする。参拝した後、アップダウンがほとんどない登山道を10分かけて頂上を目指す。
登り始めて2時間、登頂だ。少しだけ雲が退き、初夏の青い空が見えたが、それも一瞬だった。街並みの景色は一向に見えない。山々も見えない。とりあえず腰をおろして休憩する。今日のおやつは、さきイカにしてみた。汗で失った塩分が補給されていく。軽いし、おやつに乾物はありだな。
|
虫との戯れ
頂上はやたらと虫が多い。飛ぶもの、這うもの、そしてまとわりつくもの。無視できない。一匹の背が黄緑の、コガネらしき昆虫が手の上に乗ってきた。片方の手の指を近づけると、その指にまた乗ってくる。本人にとっては進んでいるつもりでも、一向に景色は変わらないはずだ。指のルームランナー上を走っているようなものだ。しばし、昆虫と遊んだ。
20分ほど頂上に滞在し、1時間20分かけて下山した。帰りにも何組かの登山者とすれ違った。貴重な梅雨の合間を見つけ、みんなやってきたのだ。少しでも日常を抜けて、そして自然を求めて。
では、ここいらで。