たくどんの山歩き便り

ガチとまではいかない山歩きを発信します

唐松岳(長野県北安曇郡白馬村・富山県黒部市、標高2695メートル)を登る

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行程の概要

【移動標高】1510メートル→2696メートル(差1186メートル)

【山行時間】7時間41分

【移動距離】14.14キロメートル(GPS)計測(下山時、1キロほどリフトを使用)

【天気】晴れときどき曇り


山の魅力を幾度となく想起させる北アルプスの一座「唐松岳

山を見惚れるがために、登りたい山。

唐松岳はそんな形容がしっくりくる山の一つだろう。

北アルプス初登攀の一座によく薦められるだけあって、アルプス登山を十二分に満喫できる愉快な山だ。

技術的にも体力的にも難易度はそれほど高くない。

遠くの山々を眺め、足元の花々に目をやりながらゆっくり登山できる。

八方池の水鏡に映る絶景から始まり、真夏に残る雪渓、頂上からの360度にわたる景色、そして愛くるしい雷鳥との出合い…

幾度となく訪れる人が多い訳がよく分かる。

まずはウォーミングアップがてら黒菱駐車場から八方池山荘まで

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駐車場から八方池山荘までの道中も北アルプス雄大な景色が見られる

今回の山行の出発地点は、黒菱駐車場だ。

標高1500メートル地点まで、車で上がることができる。

黒菱ラインリフトの発着地点だ。

ここから1本のリフトで黒菱平へ、もう1本乗り継いで、八方池の玄関口「八方池山荘」へ至る。

リフト運行前から登る計画のため、登りはリフトを使わず、自力で登った。

黒菱平までは距離にして700メートルだが、その間に高度を200メートル稼がなければならない。結構しんどい。


8月の太陽は、日の出とともに、容赦ない熱光線を発してくる。

ただひんやりとした空気がせめてもの救いだ。

風が暑さをかき消してくれる。

歩いていると遠くに(といっても感覚的には近いのだが)、壮大な北アルプスの峰々が顔を出す。

北アルプスに古馴染みのような親近感を覚える。

黒菱平は、黒菱アルペンラインと、八方駅からゴンドラとリフトを乗り継ぐ八方アルペンラインとの接合点となる。

湿原の中には木道が据えられ、それほど広くもないため簡単に周遊できる。

いろいろな植物が植生している。

帰りに植物の絵を書いている人を見かけた。

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八方池山荘はリフトの終着駅

ここから八方池山荘までは900メートル。

序盤は斜面をジグザグと登り、次第に勾配は緩くなっていく。

八方池山荘はリフトの終着点で、ここから先、八方池までは自分の足で向かう。

自販機が目についた。

ジュース、お茶、そしてビールが並ぶ。

売店ではソフトクリームが売られているが、まだ開店前だった。

下山時に楽しみたい。

いざ、八方尾根をつたって八方池へ

八方池山荘で一息つき、八方池を目指す。

70代後半とおぼしき女性に「リフトで登ってきたの?」と尋ねられた。

駐車場からと伝えると、自身も下から登ってきたと話してくれた。

体力が有り余っているとは到底思えないその女性は、トレッキングポール一本で、ゆっくりと一歩一歩、登ってきたのだ。

これから出会う素敵な花々や景色に、心動かされる瞬間を心待ちにしているようだった。

どうか、お気をつけて。


山荘から八方池までは時間にして約1時間10分。

澄み切った空のもと木道を進む。

雲も近くなってきた。

なだらかな木道は、左側通行だ。

朝はまだ下山する登山者や観光客がいないため、すれ違うことはないが、混んでくると頻繁にすれ違うことになる。

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木道は滑り止めのため、凸凹に加工されていた

雨天時は気をつけたい。

八方池までの登山道は多様な植物を見ることができる。

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登山道横に自生する高山植物たち

植物が生えている場所には、その植物の説明書きが設置してある。

名前、科目、花期、名前の由来などの簡単な説明だが、

名前すら知らなかった植物の名を知るだけで、その植物がこの山行の思い出の一部になっていく。

木道脇には8月の真夏にも関わらず、まだ雪が残っていた。

すべての季節がそこにはあった。

第二ケルン手前には公衆トイレがある。

登山道にあるとは思えないほど、きれいに清掃されていた。

しかも水洗で、無料だ。

ほんの心ばかりの寄付をさせていただいた。

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第二ケルン、標高は2000メートルを超えた

公衆トイレを過ぎると木道は終わり、ここからはザレ場、ガレ場となる。

第二ケルンは、以前この場所で遭難した息子の慰霊と、今後このような悲劇が起こらないようにと、父親らが立てたという。

道迷いしやすい登山道だったらしい。

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終始、北アルプスの雄姿を拝める
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振り返っても絶景

第二ケルンから八方ケルンまでは距離にして200メートル、八方池まではあと少しだ。

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八方ケルン

八方池に下りていく道と第三ケルンに向かう分岐があり、右手に進み八方池を目指す。

八方池が見えてきた。

八方池の静謐なキャンバスに、群青の空と白く煙る雲、そしてアルプスの峻厳な山容が、見事に映り込む絶景。

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言葉はいらない
この景色を見るために、多くの登山者と観光客が訪れる。

恵まれたことに、まだリフトが動き出す前で、八方池のこの景色を独り占めである。

風もない。水鏡を撮影できた。

これだけで、今回の山行の満足ゲージは満タンである。

思ったより八方池は小ぶりに感じたが、フレームにおさめると威力が半端ない。

地球バンザイ。


扇雪渓から丸山ケルン、そして山頂へ

20〜30分ほど八方池にいただろうか。

八方池をあとにすると、ここから本格的な登山道となる。

登山装備が必要だという但書もある。

ガレ場が続き、左側は崖だ。

ここまで木というものがほとんどなかった気がするが、

標高2150メートルに到達すると、ダケカンバが混じる広葉樹林の中に入っていく。

下ノ樺だ。

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ダケカンバの樹林帯の中にも高山植物

登山道は分かりやすい。

高山植物が花を咲かせている。

時折、トラバースしながら高度を徐々に上げていく。

少し疲れが出てきた。

唐松岳頂上山荘のテント場に宿泊されたであろう登山者と、よくすれ違うようになってきた。

上ノ樺を抜けると、八方池からおよそ1時間で、扇雪渓へ。

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天然クーラーに多くの人があたっていた

雪渓からの冷気に、汗ばむ体が喜ぶ。

平坦な広い場所で、多くの登山客が腰を下ろして休んでいた。

扇雪渓から樹林帯の中をジグザグと進み、標高を上げていく。

丸山ケルンまで15分ほどの道のりだ。

ここいらからチングルマがよく咲いている。

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チングルマの群生が目につく

5枚の花片が桜のように開き、可愛らしい。

時折、雪渓も目に入る。

丸山ケルンでひと休みする。

あいにく、ガスっていて景色はなかったが、清々しい風にあたってクールダウン。

ぼーっと、ほっとできるいい場所だ。

ここから頂上までの道はザレ場で、石車に乗って転ばないよう慎重に登る。

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ザレ場、ガレ場を慎重に登っていく

左側は崖もあり、足を滑らせたら、結構な距離を落ちることになりそうだ。

岩場も多い。

ロープが設置されている箇所もある。

ヘルメットを装着している登山者もちらほら見かける。


ピークに到着も…

丸山ケルンから50分かけて、唐松岳頂上山荘手前の広場まで来た。

見通しがよければここから唐松岳頂上が見えるはずだったが、ガスっていて10メートル先も見えない。

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かすかに見える唐松岳頂上山荘

頂上山荘も見えない。

景色も見えない。

とりあえずピークハント。

頂上まで20分だが、ガレ場、岩場で歩きづらさがある。

休み休み、景色も見れずに頂上を目指す。

頂上には何人もの人が、視界が開けるのを今か今かと待ち構えていた。

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周りは真っ白

一向に晴れる気配がない。

頂上から、思いっきりアルプスの山々を見られるはずだった。

10分ぐらい座っていただろうか。

帰途につこうと腰を上げ、帰ろうとした時、ようやく南西方面の景色が開けた。

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ようやく景色がひろがった
何枚か写真におさめた。

唐松岳は山を眺めるために登る山と言える。

帰りに頂上山荘前から見た唐松岳の山容も美麗だった。

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唐松岳の山頂を頂上山荘前から望む

初めてのご対面

そして、もう一つの思い出が。

雷鳥の親子に出会えたことだ。

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雷鳥の親子のワンシーンに感動

お菓子のパッケージの絵と映像以外では、見ることがなかった野生の雷鳥である。

母鳥とひな鳥の親子。

ひな鳥は好奇心を抑えきれずに、あちこちと歩き回る。

母鳥はひな鳥を頭をあげて見守り、そして時折、鳴く。

「あまり遠くへいかないで、こっちへおいで」と。

それでもひな鳥はおかまいなし。

どんどん好奇心にまかせて歩き回る。

母鳥は心配して、そのあとを追いかける。

そうした親子劇場が5分くらい続いただろうか。

5分足らずだったが、とても愛くるしいシーンだった。

満足ゲージが満杯を超え、溢れ出た瞬間だった。

では、ここいらで。